金のバロット

バロットとは、東南アジアを中心に食される孵化寸前のアヒルの卵を茹でたもの。

全ての人に届け。最強の個人主義。

『僕らは奇跡でできている』は2018年の日本のテレビドラマ。全10話。以下『僕キセ』と略す。

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高橋一生扮する動物行動学を教える大学講師の相河は生き物や自分の気になったものへ没頭するあまり、周りが見えなくなる遅刻常習犯。周囲の人間(大学の同僚、生徒、通う歯医者)を困惑させる彼だが、常識や固定概念を捨て、ひたすらやりたいことをする姿が周りに変革を齎す。

メディチックなドラマです。アンジャッシュの児島さんが相川の大学の同僚の風変わりな研究者として出演しています。アンジャッシュの著名なコントと言えば、「すれ違い」コントです。このドラマはそのすれ違いコントを児島さんの前でやるのです。一方は大学教授の話をしていて、一方の相河はサル山のサルのボスの世代交代の話をしていて、アンジャる(すれ違う)わけです。本当に僕のツボなことをします。

 

ニコニコと好きなことの話をする相河(高橋一生)萌えなドラマでもあります。その姿は美しいのです。

そしてアドラーの『嫌われる勇気』「課題の分離」に通ずる作品なのです。

 

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

【15分で解説】嫌われる勇気|承認欲求は生ゴミでした。(YouTube、サラタメさん【サラリーマンYouTuber】より)↓

https://youtu.be/rZBeETz8YSw

馬を泉まで連れて行くことは出来るが、馬が水を飲むかはその馬次第。

馬を泉まで連れて行くことは自分の課題であり、水を飲ませたいが水を飲むのは馬の課題である。

 

『僕キセ』では、リスの話が例に挙げられます。とある日本の森。リスは人間の作った道路を境に右では分布するが、左ではその姿を確認できない。

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「リスは渡れないのか、渡らないのか。」

こんな疑問を抱いた相河はリスに向こうの世界へ行ける手段としての吊り橋を作ります。

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相河にリスを渡らせたいのかと聞くと、橋を渡って向こうの世界に行くかどうかはリスの自由だと答えます。

 

誰しもが誰かにこう思われたい、褒められたい、評価されたいなど承認欲求が存在します。でもそれは自分ではどうしようもないことです。相手をコントロールすることは出来ないのです。

 

寓話の「ウサギとカメ」の解釈についても語られます。この寓話は、努力しないウサギをコツコツ努力するカメが追い越す話、怠け者への戒めのような話です。

なぜカメはゴール目前で寝ていたウサギを起こさなかったのか。その理由です。

相河の解釈では、カメは努力していないらしいです。カメは地面付近の世界しか見ていない。そもそもウサギの存在すら見えていないから、ウサギを起こさなかった。一方、ウサギは他人を見下すためにカメと勝負したと話します。

 

 

もう一つの大きなポイントは、このドラマは自己肯定の物語なのです。特に素晴らしいところはそこです。理解されない孤独な人への指標であり応援歌なのです。

 

「僕は人となかなか仲良くなれませんから。でも一番仲良くなりたい人と仲良くなれたから、それでいいんです。昔はその人のことが本当に大っ嫌いで(中略)僕です。

昔の僕は僕が大嫌いで毎日泣いてました。」ep2の相河より

 

エピソード1では、相河は虫歯になってしまい、歯医者を訪ねます。そこで絵を描く少年に出会います。少年と相河はとても馬が合う様子。相河は少年の描く絵をとても褒めます。少年のウサギとカメの解釈に賛同します。でもその少年は勉強が出来ず、母親からは叱られてばかりいます。少年は相河のかつての姿なのです。エピソード7では、相河とその少年の母親との対峙、過去の自分のトラウマとの対峙を描きます。

 

「(勉強が出来ない自分の息子に”やれば出来る子”といい聞かせる母親に向かって)やれないのかもしれません。」

「やりたいことだけやればいい。やらなきゃと思うことはやらないていいと祖父は言いました。僕は(得意な)科学が出来なくてもいてもいいんだ、と思えるようになりました。」ep7の相河より

 

僕はエピソード7で泣いてしまいました。大人に理解されなくて叱られている自分、クラスで浮いている自分を思い出しました。

 

『僕キセ』のちゃんとしているところは、その”自分のやりたいことだけをやればいい”の理想に釘を刺すこともします。やりたいことなんてない。やりたいことがある人は、ほんの一握り。やりたいことだけ考えていて、自分の進路を考えている気でいてはダメ。などという現実。

 

このドラマの仕掛けたマジックは“やりたいことだけやる”が周りを変えていくのです。相河は周りのことなんて考えてません。好きなことを突き詰めれば共感を得られるという作家志望への教科書でもあります。

この最強の個人主義を皆に届けたい。