『スイス・アーミー・マン』を語る。
『スイス・アーミー・マン』は、2016年のアメリカ映画。死体との友情を描くサバイバルコメディ映画。
ポール・ダノ扮する青年(ハンク)が無人島に遭難し自殺しようしているところにダニエル・ラドクリフ扮する水死体(メニー)が流れ着く。ハンクはメニーに乗り脱出を果たし、海岸に辿り着く。そしてメニーと共に森を抜け、街を目指す。その道中、スイスアーミーナイフの如く活躍を見せる。
僕の思う良い映画(良く出来ている映画)って、序盤にこの映画はどんな映画かを示す映画だと思うのです。
例えば、『ジョーカー』。『ジョーカー』は、アーサーがピエロのメイクをしながら、手で口角を無理矢理に上げて涙を流すシーンから始まります。本心は泣いているが無理に笑っている。『ジョーカー』はアーサーが笑う映画なのです。
では、『スイス・アーミー・マン』の始まりは。紙の折られたヨット数艇が海を流れている。そのヨットにはSOSの文言が。主人公が無人島で助けを求めている。広大な太平洋でその声は届かない。届かず自殺しようとする。この無人島は、主人公の置かれている状況のメタファーなのです。
映画や漫画などの作品の素晴らしいところって、メタファーができるということ。つまり、状況を視覚的に見せることができることです。構造的にも素晴らしい。
そして流れ着くメニー。メニーは放屁で海に向かって進み始め、ジェットスキーのようにしてハンクはまたがります。
大海原に俯瞰でこの二人。そしてアカペラの音楽。ラララ♪ラララ♪ラララ♪ラララ♪ラララ♪。そしてタイトルがどーん。’’Swiss Army Man’’
この序盤だけで最高なのです。
そして、ハンクが飲み水が欲しいと願うと、メニーは口から飲み水をだします。ハンクが話し相手が欲しいと願うと、メニーは話し出します。ハンクにとってメニーは唯一願いを叶えてくれる存在なのです。
何を描くか。
放屁で海を渡る、勃起したペニスが行き先を示す、水筒のように水を溜め口から吐き出す、etc。死体が多機能に活躍するという奇抜な発想ですが、ストーリーは大真面目。死体との友情を育み、主人公は現実と向き合わなければならない。トラウマを克服する。帰りたくない場所に帰る。
『チャッピー』的な要素もあって。ストーリーも思いも寄らぬ展開へ。
無人島やサバイバルを舞台にした映画は、数多くあるが、こんなにもポップでコメディで人間ドラマが観れるのはそう多くない。オチも素晴らしく美しい。
https://www.netflix.com/jp/title/80097389
Netflixで観られるので観て欲しい。90分くらいの短い映画なのでオススメです。
以下ネタバレ。
この映画の素晴らしさ。
まず、ストーリーは街を目指すというサバイバルから中盤は、メニーの忘れている記憶を呼び戻そうとし始めます。人は身体があって脳で記憶する。文明。社会。人生。愛情。などを教えていきます。ハンクの半生も教え始めます。
そしてメニーはハンクのケータイの待受の美女を知っていると言い出します。恋人だと。ハンクは思い出させるため、森に捨てられた廃材を使い、バスでのその美女に声をかけるシチュレーションをやります。コント的な。
こんなやりとりがハンクに希望を与え、メニーとの友情が育まれます。そしてこの森からもう帰らなくてもいいとまで思うようになるのです。
ここが本当に上手く、物語は家を帰ろうと始まったのに、いつから帰らなくてもいいという答えを出してしまいます。
最後。
無事に街に着いた二人。でもメニーは何も話さなくなります。メニーは行政に回収されてしまいます。ただの死体へ。ハンクは死体を抱えて逃げます。そして海岸へ。
すると、メニーが物語の始まりのように放屁で海へ向かっていきます。これは本当に存在した。メニーもその友情も本当に存在したんだとメニーは示したのです。
このオチって本当に素晴らしく美しいなと。
グッバイ、メニー。