金のバロット

バロットとは、東南アジアを中心に食される孵化寸前のアヒルの卵を茹でたもの。

ジョーカーを観た。

先々週、新宿の映画館にて友人とともにジョーカーを観た。そして今日は地元の映画館で一人観た。最初観たときはなんとも消化不良な腹持ちだったが、レビューや解説動画を見るほどに胃液で溶かされ飢え、今日に至った。ジョーカーとはなんだったのか。


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映画『ジョーカー』は、謂わばアメコミの皮を被ったアメリカン・ニューシネマである。『ジョーカー』は、『タクシー・ドライバー』(1976)やキング・オブ・コメディ』(1982)などのマーティン・スコセッシの作品群から影響を受けた作品であり、監督のトッド・フィリップスアメリカン・ニューシネマを撮るため、アメコミを利用したのである。


映画のストーリーを書くことは省くが、ここからはネタバレを含めジョーカーについて語りたい。


今日もどこかで’’笑え’’と言われている人がいる。

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ジョーカーことアーサーは自分の意思とは関係なく笑ってしまう病気だという。映画ではこの病気は脳の神経の損傷によるものとしているが、僕はそうは思わない。彼の笑いは謂わば呪いである。

彼は幼少期、母親の彼氏からの暴力を日々受けており、母はそんなアーサーを「笑っていていい子だった」と話している。アーサーは母からよく「どんな時も笑顔で(put on a happy face.)」と言われていた。そして、劇中、アーサーが高笑いする時はいつも感情は真逆の時、泣きたい時である。笑うことで痛みに耐えてきた。最悪な状況がより最悪にならないようにと笑ってきた。「いい子にしていろ」と家庭での抑圧が、大人になっても続き社会全体からもそう言われている。

この映画はその呪いから、偽りの自分から解放され、本当に笑う話である。


いないも同然。


これは彼の悩みである。社会からも、雇い主からも、同僚からも、トーマス・ウェインからも、マーレフランクリンからも、警官からも、無下にされる。母からもそう。母は息子・アーサーのことなんか見ていない。母はトーマス・ウェインのことで頭がいっぱい。

唯一やさしくしてくれたのは、小人症のゲイリーだけ。だから、彼だけは殺さない。


劇中では、アーサーはペニー・フレックの養子であるとされているが、おそらくコレはトーマス・ウェインの工作だろう。アーサーはペニーとトーマスの子ではないか。


アーサーが笑うとき

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前述した通り、アーサーが本当に笑う映画であり、その瞬間がある。

アーサーは殺人もジョークだと話すが、実はアーサーは殺人については笑っていない。作中で最初に本当に笑ったのは、地下鉄殺人がニュースになり、トーマス・ウェインがズレたコメントしたときであろう。アーサーが偶然殺したのはエリート証券マンの富裕層であり、それを勝手に政治的メッセージと受け取ったことを笑う。

そして、チャップリン映画の上映される会館の前に大量に集まる殺人ピエロの支持のデモの群衆を見て、アーサーは笑う。彼の悩みは、自分は存在していないも同然であり、社会からも誰からも無下にされることである。しかし、正しく生きていたときには見向きもされなかったアーサーは悪しき行為をした途端に認知され、悩みが解消される。そこへの高揚にアーサーは笑うのだ。


アーサーの思いついたジョークとは


映画の終盤、アーサーは精神病院のようなところで診察を受けるシーンがある。手錠をつけ、タバコをふかすアーサーは眼前で両親を殺されたブルース・ウェインの姿を想像し笑い、ジョークを思いついたという。そのジョークを医師に問われるも「理解できないさ」と答える。

このジョークは何なのか。


有名な説に(YouTubeの複数の解説動画を見た限り)、この映画のストーリーそのものがジョークでありアーサーの空想だったというものがある。僕の個人的な思いとしてはそれはつまらない。僕の考察とはこうだ。


映画『ダークナイト』では、ヒース・レジャーのジョーカーがバットマンと対峙する。『ジョーカー』では、親子ほど年齢が離れたアーサーとブルースが、映画『ダークナイト』では青年同士くらいなのだ。これは矛盾である。


映画『ジョーカー』のジョーカーと映画『ダークナイト』のジョーカーは同一人物ではないのだ。別人説。

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ジョーカーのせいで起きた暴動で、両親を殺されたバットマンは、社会のために妥当悪のため、立ち上がる。でもその社会はジョーカーを生み出した。庶民派はあくまでもジョーカー。映画『ダークナイト』では、バットマンは偽物のジョーカー(ジョーカー二代目)と戦う。ジョーカーの亡霊に苛まれ続け、バットマンは笑えない。可哀想な異母兄弟の弟がバットマン。それがジョークなのではないかと思う。


最後に、


この映画を見て共感する人は多かろう。誰もがそうだから。笑顔でいなさい、愛想良くしなさい、いい子にしなさいと。そしてジョーカーのようになる人がいるかもと心配する人もいる。でも、皮肉なことに僕らは1800円ものお金を払い、映画を嗜むことのできる。僕らはアーサーに決してなれない。


参考文献


YouTube

・【アメコミ映画に隠された怒り】ジョーカーレビュー感想【警告後、ネタバレあり】https://youtu.be/aZmtS4w1n9Q

「茶一郎」https://www.youtube.com/channel/UCcxslMsgH07k6TzF0LWiPRAより

中田敦彦風に「ジョーカー」の全てを解説!!!【前編】【ネタバレ注意】https://youtu.be/F-5JowZMf3k中田敦彦風に「ジョーカー」を解説してみた!関連映画全ての意味とは!?【後編】https://youtu.be/xL_b4i1R2BY

「Masato」https://www.youtube.com/channel/UCHvx9a03oixiE54L_UMl8UAより

・「ジョーカー」を見て落ち着かない人へ〜ネタバレあり考察https://youtu.be/6t6AKq2z3ro

岡田斗司夫https://www.youtube.com/user/toshiookada0701より

・♯231 ジョーカーはなぜ「笑う」のか!?〜衝撃の大傑作『JOKER』真相解説スペシャル!!https://youtu.be/cjbTJD4McLk

山田玲司https://www.youtube.com/channel/UC09D3M_DdLaZMJnZp0v4pLQより


ネット記事

・『ジョーカー』社会の被害者が「王の資質」を得るまでーー禁忌に触れる、悪への共振https://cinemore.jp/jp/erudition/981/article_982_p1.html

「CINEMORE」より